事例取材からカスタマージャーニーを作る — 取材を戦略資産に変える
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本記事のポイント
- BtoB のカスタマージャーニーは、事例取材の発言を時系列 6 段階 (課題認識 → 解決策探索 → 比較検討 → 評価・選定 → 導入・定着 → 成果・推奨) に並べ直して作ります。購買プロセスを完走した顧客の証言が一次情報になるため、想像で描いたマップのように形骸化しません
- 各段階では行動だけでなく「選定基準」と「つまずき」をセットで拾います。基準の重み付けは購買関与者の立場 (現場・経営層・情シス) で変わります
- 取材 1 回から、事例コンテンツに加えてジャーニーとバリュープロポジションの 2 つの戦略資産が同時に手に入ります。巻末キットで、取材の文字起こしから両方を AI 抽出できます
「ワークショップでジャーニーマップを作ったんですが、壁に貼られたまま誰も見ていません」。humbulls がマーケティングの設計を支援するなかで、この告白は本当によく聞きます。原因はマップの書式ではなく、中身が想像で埋められていることにあります——実在の顧客の一次情報が 1 行も入っていないのです。本記事では、事例取材の発言からカスタマージャーニーとバリュープロポジションを組み立てる手順を解説します。すでに取材の録音や文字起こしがあるなら、巻末のキットで今日そのまま実行できます。
1. ジャーニーが「想像の作文」になる正体 — 一次情報が入っていない
「ペルソナもジャーニーも、結局は社内の想像で書いてしまっている」。形骸化したマップには、この共通点があります。
社内メンバーの付箋で埋めたジャーニーは、顧客の物語ではなく「売り手がそう思いたい物語」です。だから施策に落ちず、更新もされず、壁に貼られたまま終わります。
最も確実な一次情報は、購買プロセスをたった今完走した顧客——つまり事例取材の相手が持っています。
顧客が何に困り、どこを調べ、誰に相談し、何を決め手に選んだのか。この情報を持っているのは顧客本人だけで、それを聞き取る場が事例取材です。取材質問設計の記事で解説した 4 つの層 (行動・心理・きっかけ・期待とのギャップ) で取った記録は、実はそのままジャーニーの材料になっています。
よくある失敗は、取材をコンテンツ制作だけで使い切ることです。同じ録音から、この記事で扱う 2 つの戦略資産まで取り出してはじめて、取材の価値を全部回収したことになります。
2. 取材発言を時系列 6 段階に並べ直す — 「選定基準」と「つまずき」をセットで拾う
「ジャーニーって、具体的には何をどう書けばいいんですか」。作業は 1 つだけです。取材の発言を、時間軸の上に置き直します。
取材で得た発言は、よく見るとすべて時間の流れのどこかに位置づけられます。使う段階は 6 つです。
| 段階 | 拾う発言 | あわせて拾うもの |
|---|---|---|
| 1. 課題認識 | 何に・いつ気づいたか。放置するとどうなる状況だったか | 検討を始めた社内のきっかけ |
| 2. 解決策探索 | どこで・何を調べたか。参考になった情報 | 使った検索語・チャネル |
| 3. 比較検討 | 何と比べたか。評価・排除の基準 | 選定基準とつまずき |
| 4. 評価・選定 | 最後の決め手。社内をどう説得したか | 稟議で使われた材料 |
| 5. 導入・定着 | 立ち上がりの苦労と乗り越え方 | サポートへの評価 |
| 6. 成果・推奨 | 得られた変化。期待とのギャップ | 他社に薦めるとしたら何と言うか |
ポイントは、行動の流れだけでなく、各段階の選定基準 (何を基準に選択肢を評価・排除したか) とつまずき (検討が止まりかけた箇所) をセットで拾うことです。ここが、自社のコンテンツと営業が「どこで・何を・どう支援すべきか」の設計図になります。
もうひとつ、選定基準の重み付けは購買関与者の立場で変わります。現場利用者は使いやすさ、経営層は ROI、情報システム部門はセキュリティ——誰の発言かをラベル付けしながら並べると、立場ごとの評価軸のズレまで見えてきます。

1 人のジャーニーは、その人の体験記で終わりません。同じ立場の次の見込み客もおおむね同じ道をたどるので、これから出会う顧客への道しるべとして機能します。
→ この並べ直しは、巻末の 実行キット① (所要 30 分) で文字起こしからそのまま実行できます。
3. ジャーニーから取り出す 2 つの実務成果 — 届ける情報の整理と、ズレの発見
「並べ直したあと、それをどう使うんですか」。取り出せる実務成果は 2 つあります。
1 つ目は、売り手として届けるべき情報の整理です。
顧客が各段階で「調べたこと」「参考になった情報」を確認すると、自社がどの段階に・どんなコンテンツを・どのチャネルで置くべきかが決まります。コラム、ホワイトペーパー、ウェビナー、事例——それぞれが埋めるべき役割が、想像ではなく発言から割り当てられます。「この段階の顧客はどんな検索をしていたか」は、次に作るコンテンツの指針そのものです。
2 つ目は、差別化ポイントのズレの発見です。
比較検討の段階で顧客が実際に評価した点と、自社が訴求してきた点を突き合わせると、ズレが可視化されます。「自社の強みは最新機能だと思っていたが、顧客はレスポンスの早さと安心感を評価して買っていた」——この種の発見は取材の現場で頻繁に起きます。読み手の解像度を上げる ペルソナ設計とも、ここで接続します。
よくある失敗は、並べ直したマップを「完成品」として保存して終わることです。成果はマップ自体ではなく、そこから決まる次のコンテンツと訴求の修正です。
4. もう 1 つの成果物 — 「決め手」の回答群がバリュープロポジションになる
「バリュープロポジションって、結局どう作ればいいんですか」。答えは取材の中にすでにあります。
「最終的な決め手は何でしたか」「導入後、何が変わりましたか」への回答群には、顧客自身が言語化した自社の価値が含まれています。これを集約したものがバリュープロポジションです。
重要なのは、それが売り手の言いたい価値 (自己満足) ではなく、顧客が実際にお金を払ってでも買いたいと思った価値 (顧客視点) になっていることです。多くの企業で、掲げているメッセージと顧客が評価したポイントの間にはズレがあります。取材の生の声でこのズレを修正することが、勝てるバリュープロポジションの再定義の出発点です。
ただし、1 社の取材は個別の物語にすぎません。
3〜5 社の取材を重ねて共通パターンが立ち上がったとき、はじめて戦略に使える顧客理解になります。
humbulls でも、事例は 1 本ずつマスター化しながら (2026-07 時点で 24 事例)、決め手の発言を横断で見比べる使い方をしています。共通して出てくる言葉が、そのままサービスページやコピーの原文候補になります。複数社の統合は巻末の 実行キット② (所要 20 分) で実行できます。
5. 売り手の地図を重ねる — ライフサイクルステージで「現在地」を共通言語にする
「ジャーニーはできたのに、営業との会話が噛み合わない」。それは買い手の地図しかないからです。
買い手のジャーニーに対応する売り手側の整理が、ライフサイクルステージです。見込み客から契約顧客、その先の推奨者に至るまでの「売り手から見た顧客の段階」で、ジャーニーが「お客様がたどる道」なら、ライフサイクルステージは「その道のどこで売り手が何をするか」の対応マップです。
- 買い手のジャーニー (6 段階) と売り手のステージを対応づける
- 各ステージで提供するコンテンツ・接点を割り当てる
- ステージを CRM の項目として管理し、顧客一人ひとりの現在地を可視化する
「マーケが渡すリードの確度が低い」「営業がフォローせず放置する」という古典的な対立の多くは、共通の地図がないまま主観で議論しているから起きています。
CRM 上で顧客の現在地が共通言語になると、どの段階の顧客が何人いて、どこがボトルネックかを同じ画面で議論できます。HubSpot での具体的な実装手順は ライフサイクルステージ運用の記事で解説しています。

まとめ — 取材 1 回で、事例・ジャーニー・バリュープロポジションの 3 点を持ち帰る
事例取材は、コンテンツ制作の作業に見えて、実態はカスタマージャーニーとバリュープロポジションという 2 大戦略資産を同時に手に入れる、確実性の高いリサーチです。取材の録音を事例 1 本で使い切らず、時系列 6 段階への並べ直しまでやる——ここまでで、取材の価値は 3 倍になります。
手元に文字起こしが 1 本でもあるなら、まずは巻末のキット①から始めてみてください。
導入事例制作の全体像 (企画から活用までの 5 工程) は導入事例の作り方完全ガイドにまとめています。
humbulls の Growth Partner サービスでは、事例取材からジャーニー設計・CRM 実装までを一気通貫で伴走しています。
🤖 AI 実行キット
本文の判断と実装を、そのまま AI で実行するためのキット集です。プロンプトは Claude (ブラウザ版で可) にコピペすれば動きます。
キット① 取材の文字起こしからジャーニーとバリュープロポジションを抽出する — 30 分
種別: 実装キット (時系列ジャーニー表 + バリュープロポジション候補が出る) 使うもの: Claude (ブラウザ版で可)。文字起こしは Zoom や録音アプリの自動文字起こしで可 事前に用意するもの: 事例取材の文字起こしテキスト 1 本 (精度が粗くても動きます)。あれば自社が現在訴求しているメッセージ (LP の見出し等)
プロンプト:
以下の【取材の文字起こし】から、カスタマージャーニーと
バリュープロポジション候補を抽出してください。
【必ずこのルールに従うこと】
- 発言を時系列 6 段階に配置する:
1. 課題認識 / 2. 解決策探索 / 3. 比較検討 / 4. 評価・選定 /
5. 導入・定着 / 6. 成果・推奨
- 各配置には原文の該当発言を引用として添える。要約だけで埋めない。
該当発言がない段階は空欄とし、創作しない
- 各段階で、発言から読み取れる「選定基準」(何を基準に評価・排除したか) と
「つまずき」(検討が止まりかけた箇所)、「参考にした情報源」を抽出する
- 発言者の立場が分かる場合 (現場 / 経営層 / 情シス等) はラベルを付ける
【出力】
1. ジャーニー表: 段階 × (発言引用 / 選定基準 / つまずき / 情報源) の表
2. 空欄の段階の一覧と、追加取材で聞くべき質問 (そのまま聞ける文面)
3. バリュープロポジション候補: 「決め手」「導入後の変化」に関する発言群から、
顧客の言葉を活かした価値の言語化を 3 案
4. ズレの検出: 【現在の訴求】と 3 の候補を突き合わせ、
訴求していないのに評価されている点 / 訴求しているのに言及がない点を列挙
【現在の訴求】
- LP の見出しや営業資料のキーメッセージ: 最新 AI 機能で業務を自動化(記入例)
【取材の文字起こし】
(ここに貼り付け)
出力の確認ポイント:
- 引用が原文に実在するか (それらしい要約が混ざっていたら破棄してやり直す)
- 「比較検討」「評価・選定」の段階に選定基準が入っているか。ここが空欄ならジャーニーより先に追加取材が必要です
- バリュープロポジション候補が顧客の言葉ベースか (売り手の宣伝文に言い換えられていないか)
うまくいかないとき:
- 段階の空欄が多い → 取材が浅いのではなく、時系列を意識しない取材の典型です。出力 2 の質問で 15 分の追加取材をすれば埋まります
- 文字起こしが長くて切れる → 前半・後半に分けて 2 回実行し、最後に「2 つのジャーニー表を統合して」と依頼します
キット② 複数社のジャーニーを統合してコンテンツ計画に落とす — 20 分
種別: 判断キット (共通パターンと、次に作るコンテンツ 3 本が出る) 使うもの: Claude (ブラウザ版で可) 事前に用意するもの: キット①で作ったジャーニー表を 2〜5 社ぶん
プロンプト:
複数社のカスタマージャーニーを統合して、コンテンツ計画を作ってください。
【判断基準 (必ずこの基準に従うこと)】
- 2 社以上で共通して出てくる「選定基準」「つまずき」「情報源」だけを
共通パターンとして採用する。1 社だけの特殊事情は「個別メモ」に分ける
- コンテンツの割当は段階ごとに考える: 課題認識 (気づかせる情報) /
解決策探索 (探される情報) / 比較検討 (評価を助ける情報) /
評価・選定 (稟議を支える情報)
- 次に作るコンテンツの優先順位は「共通のつまずきを解消するもの」を最上位にする
【ジャーニー表 (2〜5 社ぶん)】
- A 社 (製造業・80 名): (キット①の出力を貼り付け)(記入例)
- B 社: (同上)
【出力】
1. 共通パターン: 段階ごとの共通する選定基準・つまずき・情報源
2. 段階 × コンテンツの割当表 (既存コンテンツがあれば当てはめ、空きを明示)
3. 次に作るコンテンツ 3 本 (どの段階の・どのつまずきを解消するか。理由付き)
4. 個別メモ: 共通化しなかった 1 社だけの特殊事情
出力の確認ポイント:
- 共通パターンが本当に 2 社以上の発言に基づいているか
- 提案されたコンテンツが「つまずきの解消」になっているか (自社が言いたいことの列挙になっていたら基準を貼り直す)
うまくいかないとき:
- 手元のジャーニーが 1 社ぶんしかない → 統合はまだ早い段階です。1 社の表のまま「空欄の追加取材」と「ズレの修正」を先に進め、2 社目の取材は取材依頼の型で進めます
- 共通パターンが出ない → 業種や商材がバラバラな 2 社を混ぜている可能性があります。同じターゲット層の事例同士で統合し直します
参考文献
- 見込み顧客の"あと一歩"を動かす『導入事例』実践大全 (佐藤 岳 著) — マイナビ出版 (2026-06)。第 5 章「BtoBマーケティングと導入事例」が本記事の原典
- 受注を呼び込む導入事例の作り方 — GAXマーケティング (取得日: 2026-07)
- 製品・サービスの導入検討に関するアンケート調査報告書 — アイティメディア × GAXマーケティング、2023-01 実施・有効回答 375 名 (取得日: 2026-07)